『夏』

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去年は、違う彼と花火大会にきていた。壮大な打ち上げ花火に歓喜して、満たされた気持ちで帰路についた。 でも帰りの電車内、彼と揉めた。呆れるくらいくだらない内容で。 私は口もきかず、窓の外を睨んでいた。ガラスに浮かぶ浴衣姿に不機嫌な私の顔が不釣り合いだった。 優しい彼はおどけた顔をしたり、真剣な顔をしたり、私の機嫌をとりながら謝りながらかまってくれた。 その優しさに、なぜか無性に腹が立ち、更に怒りを露わにした。不思議な感情やった。優しくされればされるほど、ワガママは増大する。 あの頃の私は彼に対してすごく怒りっぽかった。 学校を休んで家でゴロゴロしてる彼の怠慢さが大嫌いだったから、そんなことで揉め事も増えていた。 だから、彼の優しくて甘い態度を逆にうっとうしく感じていたのかもしれない。 「もうほっといてよ!」 「あんたといるとしんどいの!」 彼の優しさを大切にしないどころか、私の態度で困らせて、キツい言葉で傷付けてばかりいた。 彼が、そんな私から離れるのに時間はかからなかった。 別れに至るキッカケになったのは、彼が女の子を含むグループで連絡ナシに朝帰りをしたこと。 浮気の心配なんて可愛らしいもんじゃない。ただ、連絡がなかったことに強く苛立った。 「もうあんたといると疲れる」 狂ったように泣いて、今から会いたいと言う彼を、電話を切ることで突き放した。謝る彼を赦そうとしなかった。 そして次の日、別れを切り出された。我に返って引きとめたけど、彼はズット目をそらしたままだった。
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