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「私、神堂部長が欲しいんです」
「欲しいって蓮は物じゃない」
「蓮って呼んでるんですね」
あ、しまった。と思った時はもう遅くて……
「会社の資料室で部長が部下といやらしいことしてたなんて知ったら」
「やめて」
「ばらされたくなかったら神堂部長と別れて下さい」
どうしてこうなってしまったの?
どうして……
「他のことならなんでもいうこと聞くから蓮だけは……蓮だけは……」
こんな時に泣きそうになるなんて、自分の弱さが自分の無力さが情けない。
「よーく考えておいてくださいねっ」
そう言って勝ち誇った顔でニコッと笑い、清水さんは踵を返して帰って行った。
どのくらいここに立ったままだったのか頭の中が真っ白で、ただ清水さんが言った言葉だけが繰り返し木霊する。
「美優、美優」
名前を呼ばれて、ハッと気付いた時は車から降りてきた蓮が前から歩いてきて……
「顔色悪い。なんかあった?」
このことは蓮に言えない。知られちゃいけない。私がなんとかしなくちゃいけないんだ。
だって知られたら蓮が仕事できなくなる。この若さで部長になった蓮はきっと努力をして勝ち取った称号。
それをこんな形で潰してしまうことはできない。
「ううん、なんともないよ」
「具合悪いなら今日帰る?」
「ほんとになんともないの」
蓮は優しい。ほんとに優しい。
蓮と離れるなんてできない。
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