9章

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「疲れた」 マンションに着いた私はバックも携帯も放り投げてソファに倒れ込んだ。 蓮は会議の後、外出したらしく一度も会わずに一日が終わった。 わざと避けられている訳ではないのに昨日のことがあったから、そう思えてしまう。 テレビの横に飾られた私と蓮の写真。 幸せいっぱいの私は蓮に肩を抱かれて笑っている。そして蓮も照れ臭そうに微笑んでいる。 こんなこと起きるなんて思ってもいなかったよね。 写真立てに無数の滴がポタポタと水溜まりを作っていく。 「……れ……ん」 自分で涙を拭い、下唇を噛んだ私はバックと携帯を持って玄関を飛び出した。 車はあった。だからもう帰っているはず。 私は蓮のマンションに来ていた。 オートロックだからこのボタンを押さないと中には入れない。でもたった一つのボタンが押せず立ち止まったまま。 早く押さないと管理人に怪しまれてしまう。 煮え切らない自分。決意したのに揺らぐ気持ち。 どんなに喚いてもどんなに叫んでも、蓮の横にいることはもうできない。 わかっているのに矛盾な気持ちが邪魔をして、別れたくないとまだ意地を張る。 私が決めたこと。蓮のことを想っての別れ。 きっと言ってしまえばすっきりするはず。 私は目を瞑ってボタンを押した。 「はい」 「あの……」 「入って」 急加速する心臓に手を置き、大きく深呼吸をするとカチッとロックが解除された。
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