9章

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エレベーターから降りると見慣れた風景に胸が苦しくなる。 目の前にはドアがあり、ここを開けてしまえば夢のような世界は幕を降ろす。 ドアノブを握ろうと手を伸ばそうとしたら ガチャ 「あ……」 先にドアが開き、顔を上げれば私の大好きな人がいて鼓動が動き出す。 「どうぞ」 と言われて中に入れば蓮の匂いが漂い、まだ何も話していないのに涙腺が緩み出す。 リビングに入り、ソファのいつものポジションに座ると、当たり前のように蓮が隣に座る。 バックをギュッと握って私は声を出した。 「昨日は……ごめんなさい」 「いや、あれは俺も」 「話があって来たの」 蓮には謝ってもらいたくなくて言葉を先に遮ってしまった。 だって謝られたら気持ちが揺らぐから。 「……私……別れたい」 蓮は今どんな顔をしているんだろう? こんな近くにいるのに顔を見ることさえできない。 「理由は?」 「好きな人が……できたの」 「誰?」 どんな言葉を並べてきても蓮に口で勝てる訳ない。 わかっていながらも私は次の言葉を探す。 「元彼にやり直そうって言われて」 「だから?」 え、だからって…… 戸惑いを見せてはいけないのに淡々と言う蓮を見たら、怒ってると思っていたのに…… 蓮は優しい目をして私を見ていた。 どうして、どうして怒らないの? 優しい目で私を見ないで。ふざんけんなって罵ってよ。 そうじゃないと私…… 決意が鈍るんだよ。
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