10章

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「蓮、子供みたいだよ」 だから?なんて顔で、私を捕まえたことが満足なのか、上機嫌で満面な笑み浮かべている。 蓮の腕と足によって、胸の前で完全に包囲されている私は、熱気のせいなのか体が火照っていた。 蓮ってこうやって前の彼女とお風呂に入ってたのかな。 ふと思ってしまった。 誰にだって過去があるのは当たり前。わかっているのに過去にまで嫉妬してしまう自分がいる。 私にも凌太がいたし蓮が初めての人ではない。 でもなんだろう…… 蓮のこうした行動が前の彼女にもしていたのか、同じことを言っていたのかって気になってしまう。 過去だからって片付けられればいいのに。 「何考えてんの?」 「あ、ううん」 「何?」 いっそのこと聞いてしまえばいいのかな? 「蓮ってさ……」 でも聞いて傷付く話なら聞かない方がいい。 お互い知らなくていいことだってある。 「やっぱりいい」 「そこまで言って言わないつもり?」 「……」 「言わないならここで抱くよ」 またそんな駆け引きをする。そうやっていつもうまく操られる。 「あのね……蓮って前の彼女と……こうやって……」 「入ってないよ」 話の途中で蓮は答えてしまい、私が後ろへ振り向くと一瞬、蓮の瞳が揺れた。 笑い顔ではなく真剣な顔で…… 「風呂出てから話す」 そう言って出て行ってしまった。 やっぱり聞かなきゃよかった。
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