11章

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「急がないとバスに乗り遅れる」 「ちょっと待って。お気に入りのグロスがないの」 「はあ?そんなのいらないだろ」 グロスを探す私に苛立つのか眉間を寄せて蓮が玄関で待っている。 この間買ったばっかりなのに……やっぱり見つからない。帰ってきたら探すしかないね。 諦めた私はバックを持って駆け出した。 「あったの?」 「……なかった」 「部屋のどっかに転がってるんだろ」 「うん……」 今日は社員旅行の日。 蓮の車で会社まで行って、そこから貸し切りバスで移動する。 「会社の手前で降ろしてね」 ハンドル片手に運転している蓮に言うと 「なんで?」 って不思議そうな顔をしている。 「バレたら困るでしょ」 「なんか隠してるの面倒になった」 せっかくここまで隠してきたんだから隠し通そうよ。 「せっかくの旅行だし」 二人だけの旅行じゃないんだから、余計ややこしくなる。 「とにかくバレないようにしなきゃ」 「はいはい」 うわっ あからさまに不機嫌モードを出している。投げやりな返事をした蓮は私の方を一度も見ないで運転をしていた。 「どうぞ降りて下さい」 車が停まったのは会社から離れた歩道で朝が早いためか人影がなかった。 「蓮怒ってる?」 「怒ってません」 低い声音でだるそうに窓の外に目を向けて蓮は言った。 「その言い方は怒ってるよ」 もお、どうしてこうなるの。 「間に合わなくなりますよ」 あーもお。そうやってすぐ拗ねるんだから。今日一日話せないっていうのに。 「蓮のバカ!」 私だって気を遣ってるのに。だから会社で降りないで、こうやって離れた所で降ろしてもらってるのに。 でも蓮にバカって言っちゃったことは後悔していた。
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