11章

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「へー。いい旅館だね」 満足そうな笑みを浮かべた梨花が言った。 開業してから何十年も経つこの老舗旅館は、木の温もりを残し、昔の建物のままだった。 「なんかここ落ち着く。あっ、でも中は改装してるね」 なんて会話をしながら歩いていると蓮が前を歩いていた。 でも隣には……私の二つ先輩の三浦さん(ミウラミズホ)がピッタリくっついていて…… 「早速モテてるね」 「……うん」 「何そんな暗い顔してんの」 バシッと音がなるぐらい梨花が私の背中を叩いた。 「い、痛いよ、梨花」 「今日は年に一度の社員旅行だよ。あいつのことは気にしないで楽しもうよ」 こんな素敵な旅館に来たんだもん楽しまなきゃね。 そう思っているのに目の前であんな光景を見てしまうと……やっぱり気分が優れない。 「はあ」 深いため息を付いた私は蓮の背中を眺めていた。 「井上」 後ろから私を呼ぶ声が聞こえて、首だけ向けるとそこには同期の高杉くん(タカスギユウ)が立っていた。 「高杉くん」 「久しぶり」 「久しぶりだね」 同期の高杉くんは営業課に行き、最近ずっと見掛けなくて、私もどうしてるかなって思っていた。入社後の研修で同じグループになってからよくみんなで飲みに行っていた一人だ。 「俺、外回りでいつもオフィスにいなくてよ」 「私もしょっちゅう営業課行くけどいつも高杉くんいないんだもん」 「やっと仕事任されて忙しくてな」 一人前になったってことだよね。 高杉くんはスラッと背が高くて、サッカー少年だったらしく男らしいというのが初めて会った時の印象だった。少しだけ短めの髪に切れ長の目。きっと彼もモテると思う。 久しぶりかつい長話になってしまいしゃべり込んでしまっていた。 それを遠くから蓮が見ていたなんて私は気付きもしなかった。
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