11章

9/19
前へ
/549ページ
次へ
蓮の横には三浦さんが座っていて、お酒を飲んでいるのか頬を赤くしていた。 あ、肩が…… 浴衣が乱れて少し肩が露になっている。 蓮の腕に手を絡めて、色っぽい視線で話し掛けていた。 「井上、おい井上」 「あ、うん?どうしたの?」 「ボケッとしてるから呼んだんだよ。向こうに誰かいるのか?」 そう言った高杉くんが私の方へ寄り、首をキョロキョロ動かして、私の視線の先を探している。 「神堂部長あれやばくない?隣の女に言い寄られてるんじゃね?」 「あ、うん、ほんとだね」 蓮を見ていたことはバレていないようだ。 「別に誰もいないな」 「ボッーとしてただけだから」 蓮、いやじゃないのかな。いやだったらあの手を離せるよね。 蓮に触れてほしくない。あんな目で蓮を見ないで。 ほんとは蓮の所に走って行って三浦さんを避けて私が隣に座りたい。 でも今ここで何もできない私は見ぬふりをして、ただじっと我慢するしかなくて耐えなきゃいけない。 泣きそうになってきて下唇を噛み、浴衣の袖を強く握っていた。 「どうした?」 「ううん」 高杉くんが心配そうな顔で煙草の火を消すと、空になっていたグラスにビールを注いだ。 「ありがと」 そう言った私は満杯になりそうなビールを一気に飲み干し、空いたグラスを高杉くんに差し出した。 「何?」 「おかわり」 ヤケになった私は飲んで蓮のことなんて忘れよう。そう決心したのだ。
/549ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23658人が本棚に入れています
本棚に追加