11章

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高杉くんは寝ている私を引き寄せてゆっくり顔を近付け、鼻と鼻が触れる寸前で顔を避けた。 「寝てるからって卑怯だよな」 最初の頃は会社の同期ってだけで、研修でたまたま一緒になった仲間だった。 そのうちみんなで飲みに行ったりするようになって、いつからなんだろう。気が付いた時は井上を意識していて、こいつの仕草とか笑う顔が気持ちを大きくしていって、好きだと気付いた。 でもその頃の井上は彼氏と別れたばかりで、落ち込んでいたから思いを伝えることができなかった。 上司のサブとして仕事をしていた俺は忙しさで井上達と飲みに行くことがなくなって、久しぶりに今日井上に会ったんだ。 相変わらず、人懐っこい笑顔でくしゃっと笑うから、忘れていた想いが込み上げた。 一歩でもいいから近付きたい。 そう思った俺は宴会場で井上の隣が空いているのを見つけてそこに座った。 「もしもし。鈴木?」 『高杉くん、梨花知らない?私が違う所で飲んでる間にいなくなったのよ』 「ここにいるよ」 『ここ?ここってどこ?』 「中庭。迎いに来てくれ」 『わ、わかった。今行く』 蓮…… 私はここにいるよ。早くギュッてしてよ。
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