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私はどこに行きたいのかな。
何も考えずに部屋を出たけど行く宛がない。
一人寂しく辿り着いたのはさっきいた中庭だった。
誰もいない中庭は虫の鳴き声しか聞こえなくて、たまに草木の揺れる音しか響かない。
「ふう」
と酸素を肺いっぱい大きく吸って二酸化炭素を吐き出す。
「寂しいな……」
そう染々思ってしまうほどの静けさ。秋になってしまったからか風が少し冷たい。3人ほど座れそうなベンチは隣が空いていて、ここに蓮がいてくれたら……と思ってしまう。
「神堂部長待って下さい」
神堂部長って蓮のこと?今の声は女の人の声。
聞こえた方角を捜し見たその先には……
蓮と三浦さんが……
抱き合っていた。
見たくないと目を逸らした時には私の涙は頬を伝っていて、だんだん歪む視界で二人の表情が見えなくなる。
少し遠くにいるからか蓮は私に気付いていない。
三浦さんの手が蓮の腰を囲み胸元に顔を埋めていた。
「やだ……やだ……」
これ以上ここにいるのは酷だ。
私は慣れない旅館のスリッパで早くここから立ち去りたくて息が切れるまで入口に向かって走り続けた。
入口前でスリッパが脱げてしまい、私は砂利に体を投げ出していた。
「痛っ」
あまりにも激痛が走り両手を地面に付いたまま動けないでいた。
抱き合う所なんて見たくなかった。知らないままでいたかった。蓮が三浦さんの背中に手を回したと同時に私は駆け出していた。
どんな理由でも三浦さんを受け止めてほしくなかった……
「うっ……」
足の痛みなんかより今は心の痛みの方が痛くて……ただ切なくて涙を流すしかなかった。
「何やってんだよ」
泣き崩れている私の腕をきつく誰かが掴んだ。
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