11章

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「高杉くん……」 一瞬、蓮だと思ってしまった。でもそれは私だけの願望で腕を掴んだのは優しい表情をした高杉くんだった。 「どうして泣いて……お前凄い血だぞ」 私……スリッパが脱げて転んでたんだ。 「どんな転び方してそうなるんだよ」 「キャッ」 ふわっと体が浮くと私はすでに高杉くんに抱えられていて、蓮ではなく高杉くんの匂いが鼻を擽った。 「高杉くん、大丈夫だから降ろして」 「お前、血だらけだ」 「あ……」 ほんとに浴衣は血だらけで血痕がいっぱい付いていた。 でも小さな抵抗かもしれないけど足をバタバタして降ろしてほしいと訴えると、 「暴れんなよ」 「だって私歩けるもん。だから降ろしてよ」 「いいから黙っていうこと聞けって」 周りに人はいないけど、やっぱり後ろめたい気持ちがあって…… でもさっきの蓮の姿を思い出してしまうと…… また涙が滲み抵抗をするのをやめて、高杉くんに身を任せていた。 「泣きたいなら泣いていいぞ」 高杉くんの優しい言葉は今の私には慰めの言葉より嬉しかった。 理由を聞かないのは高杉くんの気遣い。 私は抱えられたまま、両手で目を塞いで声を押さえて涙を流した。 「浴衣捲って」 傷口を洗うってことで、私の部屋の浴室に来ていた。 さすがの私でも異性を目の前に太股まで浴衣を捲るのは抵抗があって、躊躇っていると 「恥ずかしいなんて言ってられねぇだろ」 大胆にも高杉くんが浴衣を捲ってしまった。 うわっ。やっぱり恥ずかしい。きっと私の顔は真っ赤だ。 シャワーで両膝に生温いお湯を掛けると 「イタッ」 「染みる?」 「うん……」 「ちょっと我慢して」 泥のついた膝をきれいに洗い流し、裸足で汚れた足の裏まで洗う高杉くんの手を、私は無言のまま黙って見ていた。
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