11章

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「よし、こんなもんかな」 タオルでそっと優しく拭いてくれている。蓮とは違う指先。高杉くんは蓮じゃない。どうして今ここにいるのは蓮じゃないんだろう。 「うわっ」 またしても抱えられてしまって。でも抵抗する気持ちがなくって。されるがまま下から見える高杉くんの顔を見ていた。 ベットへ静かに降ろしてくれた高杉くんが 「フロント行って来るからちょっと待ってて」 「あ、うん」 「すぐ戻る」 そう言って部屋を出た。 足からまだ血が滲んでいて傷口がチクチクと痛み歯をギュッと食い縛る。 「はははっ、おっちょこちょい……だな……」 笑っているのに心は正直で涙が止まらない。 こうやって私を助けてくれたのは高杉くんなのに、高杉くんじゃなく蓮を求めてしまう。そんな自分が嫌だ。 ブブッ、ブブッ 携帯…… ベットの上に放り出された携帯が震えている。 手に取るとそこには蓮の名前…… メールではなく着信。 いつもならすぐ出るのに出たいのに声を聴きたいのに出られない。 蓮の口から何を聞かされるのかわからない恐怖と不安。 そして中庭のことを絶対責めてしまう自分が携帯に出ることを躊躇っている。 でも携帯の震えはすでに止まっていて、不在ランプが点滅するだけ。 結局……出れなかった。 トントン 「はい……」 急いできたのか息を切らして高杉くんが入ってきて、浴衣をポンと膝の上に置いた。 「血だらけだろ?」 そっか血痕が付いてるからフロントに取りに行ってくれたんだ…… 「うん。ありがと」 「まだ出血してるな」 捲れた浴衣から出ていた膝を見て心配そうに眉を潜め 「ガーゼと包帯もらってきたから、取りあえずこれ巻こう」 指先が器用なのか綺麗に包帯を巻いてくれている。男の人ってこういうの苦手なのに。 あ…… 高杉くんも睫毛長い。 蓮みたい。 ほらね、誰を見ても私は蓮と比べてしまう。 高杉くんは蓮じゃないのに……
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