11章

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「どうして泣いてた?言いたくないなら言わなくていいけど」 包帯を巻きながら優しい声音で高杉くんは言った。 「高杉くん……ごめん……ね」 「だから言いたくないならいんだって」 一度膝から視線を私に向けてニコリと笑ってまた包帯を巻いてくれる。 「辛いことあるんだったら俺に言えよ。相談にのるからよ」 「うん」 ほんとに今回は高杉くんに救われた。きっと高杉くんがいなかったら今頃メソメソここで泣いていた。 「高杉くんありがと」 「おっ、やっと俺がいい奴ってわかったか」 「最初からわかってるよ」 包帯を巻き終わった高杉くんが顔を上げて私を見た。 真っ直ぐなその瞳は真剣な眼差しで私の視線を捕らえると心臓がドキドキと音を立てた。 「できたよ」 と言って立ち上がり私の頭をクシャクシャと撫でた。 不覚にもドキッとしてしまい何かあっても困るけど何もなかったことにホッしている自分がいた。 「俺もう行くな」 「あ、うん」 「明日も痛かったら病院行けよな」 「うん」 ドアまで一緒に歩き高杉くんがドアを開けた時だった。 偶然なのか必然なのか蓮がちょうど私の部屋の前にいた。 まさか蓮がいると思わなくて私は驚いて目を見開き目を逸らした。 「こんばんは」 と普通に挨拶をした高杉くんは疑う様子もなく私も小さな声で挨拶をした。 でも蓮は挨拶を交わすとそのまま歩いて行ってしまった。 たまたま通り掛かったのか、それとも私の部屋に来たのだろうか。 「じゃあな」 「高杉くん、ほんとにありがと」 「ああ」 高杉くんの後ろ姿を見送ってから蓮を見たけど…… そこには蓮の姿はもうなかった。
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