11章

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蓮に高杉くんといる所を見られてしまった。 その時の蓮は驚いた顔もせず、挨拶を交わしただけで私と目を合わせてくれなかった。 蓮に後ろめたい気持ちがあるからなのか、それとも私の部屋から高杉くんが出てきたからなのか、素っ気ない態度で無表情の蓮から感情を読み取ることはできなかった。 どうして中庭で三浦さんと抱き合っていたのか、知りたい気持ちと知りたくない気持ちが自分の中で交差している。 もしかしたら何かあったのかもしれない。 そう信じたいのに抱き合っていたのは事実で、蓮の腕が三浦さんの腰に回っていたのをこの目で確かに見てしまった。 私が見なかったら蓮は何もなかったように通り過ぎるだろうか。 それともちゃんと話してくれるだろうか。 「信じたい……でも……」 堪えられず涙が勝手に溢れ出す。 涙を拭ってくれる蓮はここにいない。だから自分で涙を拭うしかなかった。 「れ……ん……」 いつの間にか泣きながら眠ってしまい目を覚まして時計を見ると5時を過ぎたばかりだった。 ベットから体を起こすと膝の痛みで顔がひきつる。 純白の包帯からうっすらと滲んでいる血を見て、昨日の出来事が夢ではないことを思い知る。 曲げるだけで痛い足を引きずるように歩きテーブルの上の携帯を取った。 ほんの少しの期待を胸に携帯を見たけどメールも着信もなく、ちょっとだけを肩を落とす。 「はあ……」 蓮に何を期待してる? あれは事故でって謝ってほしい? それとも何もなかった顔で秘密にしてほしい? 違う。そうじゃない。 蓮の口からちゃんとした理由を聞きたかった。 嘘じゃなく本当の理由。 ただそれだけなのに蓮は何も言ってくれない。
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