12章

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携帯のバイブ音がバックから振動で伝わってきた。 着信の相手はたぶん蓮。 私は携帯を見る気になれず携帯を取り出すことをしなかった。 どうせ怒ってるに違いない。それなら出ない方がいい。 立ち上がり路地から出ると色様々な傘が雨を防いでいた。傘がない私は雨に打たれ、行き先のない道をただひたすら歩く。 両膝が痛いのに痛みさえ感じなくなるぐらいただ真っ直ぐに…… すれ違う人々が哀れむ顔でびしょ濡れの私を振り返って見ている。 傘も差さずに歩いているからだろうね。でも恥ずかしいなんて思わなかった。 冷たい雨は私の心を洗ってくれるかのように音を立てて降り続いていた…… 「これからどうしよう……」 梨花の家に行く?でも松田さんがいるかもしれない。 雨は止むことなく、それよりかだんだん強くなっていって体に当たると痛いぐらい。 気付けばいつの間にか蓮のマンションの近くの公園に来ていた。 大きな水溜まりを作っている暗闇の公園は、薄気味悪く、人、一人いなくて…… でも私は公園に入って行った。 滑り台の下に雨宿りができるスペースを見つけ、そこに入って息を整えた。 「寒い」 雨の冷たさで小刻みに体が震え手がかじかんできた。 「今何時だろ……」 時間さえわからないぐらいたくさん歩いて、結局は蓮のマンション近くまで来ていた。 あ……蓮のマンションが見える。 目が悪い私は部屋の明かりまで確認するのは不可能で、ただぼんやりとマンションを眺めていた。 「美優?」 愛しい人が優しく私を呼ぶ。振り向かなくたって声の持ち主がわかるよ。 それが蓮だってことを……
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