12章

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「蓮……」 涙が次々と頬を伝って私のジーンズに落ちていく。 「どこ……行ってたん……だよ」 そう言った蓮の声音はとてもか細い声で……震えていた。 しゃがんでいた私はすでに蓮の優しい腕の中に閉じ込められて、微かに香る蓮の香水に胸が熱くなっていた。 「蓮……服濡れ」 「携帯でないし……どこ探してもいないし……美優がいなくなったらって考えたら……」 そう言った蓮は私を抱く腕をきつくして、密着した蓮の体から伝わる体温がとても温かくて、冷えきっていた体も心もポカポカと温度を上げてくれた。 「私」 「どこにも……行くなよ」 「蓮……」 こんな蓮を見るのは初めてだった。いつも強がりで俺様の蓮がこんなにも弱気だったなんて…… 「俺達の家に……帰ろう」 放り投げられていた傘が寂しく雨の中転がっていて、その傘を蓮が拾い、私の頭上に差してくれた。 私は俯いていた顔を上げて蓮を見上げれば、眉を下げ切なげな視線で見つめている。 何も言わない蓮は傘からはみ出した肩をギュッと引き寄せ雨に濡れないようにしてくれる。 そんな優しさに胸がとても痛かった。 「体冷えてるから先に風呂入ってきたら?」 「うん……」 マンションに戻ってから二人の間にはぎこちない空気が漂い、蓮に先にお風呂に入るように言われてホッした自分がいた。 自分の部屋から着替えを持って脱衣場に入る。 湯船に浸かり、冷たくなった体がゆっくり温まっていく。 蓮もびしょ濡れになっていたことを思い出すと、自分の行動が大人げなかったことに自己嫌悪に陥る。 ずっとこの雨の中、私を探してくれてたんだね……蓮。
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