14章

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カレンダーはもう師走になり、一番忙しい月になってしまった。 まだ月始めだからいいけど、来週からは毎日残業の日が続く。 「井上、これ営業課に置いてきて」 「はい」 蓮からの命令で私はすぐに立ち上がり蓮のデスクに行くと、ちらっと私を見てパソコンに視線を移した。 それだけでも満足な私は嬉しくて足取りが軽くなるのを押さえながらオフィスを出た。 営業課に行くためエレベーターを待っていると 「井上」 後ろから私を呼ぶ声が聞こえて振り向いた。 「あ、高杉くん」 両手いっぱいに書類を持った高杉くんが立っていた。 高杉くんに会うのは社員旅行以来で久しぶりの再会だった。 「膝はどう?」 と言った高杉くんは少し屈んでずっと私の膝を見ている。 「お陰さまで良くなったよ。まだ少し傷が残ってるけどもう大丈夫。高杉くん、あの時はありがとう」 「そっか。良くなったなら安心した」 無事を聞いてか高杉くんは安堵していた。 「そうだ。あの約束覚えてる?」 「あの……約束?」 うん?なんだろ? 「お前忘れたのかよ」 「約束……あ!思い出した!」 酔って中庭のベンチで私を介抱してくれた時のお詫びに飲みに行こうって約束したんだった。 「で、いつにする?」 え、いつって言われても…… 「来週からお互いに忙しくなるだろう?だから今週の金曜日は?」 予定はないけど……蓮にちゃんと話して許可をもらわなくちゃいけない。 許可なんて言ったら変かもしれないけど、男の人と一緒だから隠しておくのもどうかと思う。 たぶん、いいよって言ってくれる気がするんだけど…… 「返事明日でもいいかな?」 「ああ、いいよ」 「じゃ、メールするね」 「おお。メール待ってる」 そう言ってお互い手を振って別れた。 あ、すっかり長話になっちゃって営業課に行くの忘れてたよ。 私はちょうど来たエレベーターに駆け乗って営業課に向かった。
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