14章

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「はあ……」 朝からとにかく忙しくって、まだ昼食も摂れていない。 魔の年末突入で、さっきからいろいろな課を走り回っていた。 蓮もデスクを離れたまま、まだ戻って来ない。 さっきからため息の連続。お腹も空きすぎて限界を越えてしまったのか音さえ鳴らない。 「美優、先にご飯食べたら?」 「え、梨花は?」 「美優が終わったら交代しよう」 「うん。じゃあ私、ご飯食べてくるね」 そう言って、オフィスを出た私は一人寂しく社員食堂へ向かった。 あっ、蓮だ。 そして後ろでひそひそ話をしている蓮のファンらしき女子社員達。 相変わらず人気者の蓮を見るとすごく遠い人に見えてしまう。 松田さんの話に頷いて真剣な顔で話をしている。 私は注文したミートスパゲティを持って、窓際の空いている席に一人で座った。 「いただきます」 早く食べて梨花と交代してあげなきゃ。 いつもよりちょっと早めに食べていると、 「よっ、井上」 口をモゴモゴさせながら振り向くと 「た、たかしゅぎぐん」 早く飲むためスパゲティを一気に胃に押し込んで、冷えた水を流し込んだ。 「ごめん、急に声掛けたからびっくりしたよな。ここ座っていい?」 え、ここ?でも今はちょっと…… そう思っているうちに高杉くんは座ってしまい、私は蓮をちらっと見た。 でも松田さんと会話をしていて私の方は見ていない。 どうしよう。もう座っちゃったし、今更断るなんてできない。 「井上」 高杉くんは自分の口元に指を指している。 「うん?」 何を言いたいのかわからなくて首を傾げると 「ミートソース付いてる」 私の口元に手を伸ばしてそっと触れた。 私はびっくりしてしまい体を少し後ろへ引く。 会社の人達がいる中でしかも蓮がいるのに、高杉くんの行動に動揺してしまった。 でも高杉くんは何もなかったかのように仕事の話を始めてしまい、私だけが変に意識してしまったことに恥ずかしくなった。
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