14章

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「俺が見てないとでも思った?」 私は顔をブンブンと何度も横に振った。 同じ社員食堂にいたんだから見られても当然で…… 私の気の緩みが高杉くんに隙を与えてしまったのかもしれない。 いつも気を付けているつもりでも私はきっと高杉くんから見ても蓮から見ても隙だらけなんだ。 自分の情けなさに胸が痛い。 俯く私の目から涙が溢れて床に落ちていく。 「美優」 伸びてきた蓮の手に体が引き寄せられ、私は蓮の腕の中にいた。 「俺の嫉妬で泣かせてごめん」 「違うの。蓮のせいじゃ」 「美優の事になると自分を押さえられなくなる。高杉じゃなくても他の男でも美優に触る奴が許せなくて。それなのに俺……美優は悪くないのに責めてばかりだよな」 ううん。違うよ。 それは私を想ってくれてるからであって、私が逆の立場でもそんな場面は見たくないし触ってほしくない。 だから蓮の気持ちがわかる。 「私、もっと気を付ける」 蓮が強く抱き締めたから私も抱き締め返した。 たったこれだけなのに自然に涙が止まって、心が落ち着く。 「あっ!梨花忘れてた!」 きっと今頃…… 怒った梨花が頭を過って私は蓮から離れた。 「蓮、梨花が待ってるから行くね」 「ムードぶち壊し」 ククッと笑った蓮にまた引き寄せられて、チュッと音を立ててキスをもらうと、 「俺は少し遅れて行くから先に行って」 「うん」 私は踵を返し重いドアを開けた。 オフィスに戻るとお腹を空かして梨花が待っていて、 「まさかあいつと一緒にいたんじゃないだろうね」 と、すべてを見られていたかのようにお見通しで…… 意地悪な笑みを溢した梨花に大量の仕事を与えられたのは言うまでもなく。 今日も帰りが遅いことを確信した。
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