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「フフッ、蓮喜んでくれるかな」
鞄に入ったキーケースは水色のリボンを付けてもらって、メッセージカードを添えさせてもらった。
キーケースならいつも持ち歩いてるから、きっと肌身離さず持ってくれるかな、なんて束縛してるみたいだけど……
中学生が淡い恋をしているみたいな、そんな気持ちになってしまって。
白い息を吐きながら、落ち掛かったマフラーを首に回し駅へ向かっていた。
「あれ?」
地下へ降りる入口の前に蓮らしき人が立っていた。
10メートルぐらい先で背中しか見えないけど、あれは多分……蓮。
でも……
蓮の前には女の人がいて、その人の片腕を蓮が掴んでいて……
ストレートのロングヘア……
あの人、この間訪ねて来た人。
やっぱり蓮の知っている人だったんだ。
あの時の蓮の様子が頭に浮かび、瞳を揺らしたのは知っている人だったから……
二人は真剣な眼差しでしかも女の人は泣いているようにも見える。
私には入り込めない何かがあの二人にはありそうで、だんだん不安になって胸が押し潰されていく。
引き返したいのに動こうとしない足。
目を瞑りたいのに見開いたまま瞬きを忘れてしまった目。
見つかりたくないって思っているのに体がそこから抜け出そうとしない。
今日の蓮は外回りのはず。デスクの上にはまだたくさんの書類が山積みになっていた。
だから会社に戻って仕事をするんだって思っていたのに……
女の人と会ってた。
でも偶然かもしれない。たまたま会ったのかもしれない。
良い方へ良い方へと考えるのに視界は蓮達を曇らせ、涙は頬を伝って流れていた。
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