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ホワイトクリスマスの曲が流れているのに私には無音だった。
気付いた時は蓮も女の人も消えていて、二人がどこへ行ったのかわからない。
重たい足取りで電車に乗り、壁に寄り掛かったまま流れる景色を見ていた。
マンションに着いて蓮の車がないことに胸を撫で下ろし、エントランスに入ろうとしたら、
「あなたが蓮の彼女?」
どこにいたのか誰かに声を掛けられ振り向くと……
そこに立っていたのはさっき蓮と一緒にいた女の人だった。
「蓮の趣味も変わったのね」
フッと鼻で笑った女の人は少しつり上がった目で細くて長身のきれいな人だった。
「あの……」
「私が誰か知りたいわよね。婚約者って言った方が早いかしら」
自信に満ちたその独特な笑みは身が震えるぐらいの威圧感があって……
一瞬でも隙を見せたら漬け込まれそうなぐらい冷たい瞳をしていた。
「蓮から何も聞いてないの?」
「……」
「そうよね。婚約者がいるのに同棲するなんて、あなたに私のこと言える訳ないわよね」
婚約者いたんだ……
そうだよね。こんな私なんかと付き合うなんておかしな話だよね。
バカだな私。何、浮かれちゃってたんだろう。
この人の前ではなぜか涙を見せたくないって思うのに勝手に涙は出てきちゃって、私はギュッと拳を握った。
「さっき蓮に今回のことは許すからって話したの。でもそれは今日で終わり。今すぐ蓮のマンションから出て行ってくれない?」
冷たい視線が私に向けられ、体が凍ったかのように動かない。
返す言葉もなく、婚約者がいるのに騙されていたのがショック過ぎて言葉にもならない……
二人に割り込んだのは私で、蓮の前から消えるのは……
私……
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