15章

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「私どこに帰ろっかな」 笑っているのに涙は勝手に流れて肩が震えている。 騙されていたことが悔しいのに、ひどいって蓮を責めたいのに、それでもこんなに蓮が好きで楽しかった思い出が何度も繰り返し頭を過っていく。 鞄の中のプレゼントは蓮に届かないまま寂しく残っていて、私は手を伸ばし小さな箱を取り出した。 喜んで使ってくれることを想像して買ったキーケース。 「これどうしよう……」 私はたくさんの愛を蓮から貰った。 それは数えきれないほどの優しさと愛情。 たとえ婚約者がいてもその一つ一つの瞬間はとても幸せだった。 だからありがとうの気持ちでこのプレゼント置いていってもいいかな? その後の処理はどうなってもいい。 たださっきまでの幸福の時間を消したくない。 私は蓮と過ごせて幸せだった。ほんとに幸せだった。 だから最後にこのプレゼントだけは受け取ってほしい。 ローテーブルの上に水色のリボンの付いた箱を置いた。 「蓮……」 涙で顔がグシャグシャになるぐらい声を上げて泣いていた。 必要な物だけバックに詰めて、蓮のマンションを飛び出した。 外へ出ると綿菓子みたいなフワッとした雪が降っていた。 道路は雪一面、真っ白な絨毯を敷いたみたいで後ろを振り向くと私の足跡だけが残されている。 遠くなるマンションを見ては涙が溢れ、自分で拭いながら行く宛のない雪の上を歩いた。
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