15章

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ピンポン もう寝ちゃったかな…… 帰る場所がない私は実家のインターホンを押していた。 ガチャ 「あら、美優」 顔を合わせずらい私はお母さんの足元を見ていた。 「こんなに濡れて、早く入りなさい」 「……うん」 鍵を閉めたお母さんは私の背中を押してくれて…… 何があったのか何も聞かない。 「ご飯食べたの?」 「……ううん」 「今日はね、珍しくシチュー作ったの。美優好きでしょ」 「……うん」 キッチンにいたお母さんがスリッパを鳴らしてシチューの入った皿をテーブルに置き、 「明日はクリスマスだからケーキ買って、美優のためにご馳走作ろうかしら」 お母さんの温かい言葉にポロポロと涙が溢れてきて、誰かにすがりたくて泣いてしまっていた。 「おいし……い」 懐かしいお母さんの味は心が暖まって…… でもふとまた蓮を思い出すと苦しくて…… 何も聞いてこないのはきっとお母さんの優しさ。蓮とのことを話してしまえば少しでも気持ちが楽になるのかもしれないけど、私はお母さんに話さなかった。 久しぶりに自分の部屋に入り、ここを出るまで使っていた小さなベットに寝転ぶと静寂な部屋に携帯が震えた。 バックから携帯を出すとディスプレイには蓮の名前が表示されて、私の心臓が痛み出す。 会社からなのか自宅からなのか…… 自宅なら私がいないことに気付いて携帯を鳴らしている。 会社だったらこの状況を蓮は知らない。 蓮の声が聴きたい。 誤解だよって笑ってほしい。 そう言ってくれれば蓮を目掛けて飛び込んで行くのに…… 夢ではない現実に私は携帯を握り締めて泣くことしかできなかった。
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