15章

12/12
前へ
/549ページ
次へ
「お願い……止まって……」 何度も振るえる携帯は蓮からの電話で…… 私は意を決意して電源を切り、持っていた携帯を床に叩き付けた。 どんな言い訳をされても婚約者がいる限り、もう元には戻れない。婚約者から蓮を奪う勇気なんて私にはない。 思い出が浅いうちにわかっていれば…… こんなに好きになんてならなかった。どうやったら私から蓮を消せるの? 蓮との日々は色褪せることなく鮮明に私の記憶の中で描かれたままで、それを今すぐ消去してしまうことは不可能で…… 蓮が私に口元を上げて笑い掛ける笑顔が目の裏に焼き付いていて、私は胸が苦しくなって枕に顔を埋めて泣いていた。 「美優、時間よ」 「う……ん」 蓮の声じゃなくてお母さんの声。 寝返りを打つとすぐ壁に足がぶつかって、蓮が隣にいないんだと気付かされ目を覚ました。 目覚めに見る天井が違う。 蓮の匂いもなければ温もりもない。 蓮がいないという生活はこういうことなんだ。 じわっと緩む涙腺を手で押さえて息を飲んだ。 会社へ行く気にならない重たい体を起こすと…… 昨日叩き付けた携帯は電池が取れて床に転がっていた。 私の携帯が通じないから蓮はもう諦めたかな? それとも私を探してくれた? 私は携帯を拾おうともしないでただ眺めていた。
/549ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23658人が本棚に入れています
本棚に追加