16章

2/18
前へ
/549ページ
次へ
朝の電車はサラリーマンやOL、そして学生で満員で…… やっとの隙間に私は収まっていた。 窮屈な車内は電車の動きに身を任せ、私はぼんやりと流れる高層ビルを見ていた。 「おい、大丈夫か」 と、背中越しから声を掛けられて首だけ後ろへ動かすと高杉くんが眉を寄せて立っていた。 あれ、窮屈じゃない。 いつの間にか私の周りは少し余裕ができていた。 それは高杉くんが壁のようにガードしてくれてたからで…… 「あっちで井上見かけて顔色悪いから来てみたんだけど……具合悪いのか?」 「……ううん。それよりこれありがとう」 「これ?」 「ほら、高杉くん壁になってくれたんでしょ」 「ああ」 照れくさそうにそっぽを向いて笑った高杉くんは私から目を背けた。 そしてまた視線は私に戻り 「ほんとに具合悪くねぇの?」 「ほんとに大丈夫だってば」 「ならいんだけどよ」 まだ疑っているのか納得言ってないような顔で口をへの字にしていた。 駅に着いたので電車から降り、改札口を過ぎる。 同じ方向へ向かうのが当たり前の高杉くんが隣を歩いていた。 「井上」 「うん?」 「なんで今日電車なの?いつも車だよな?」 途中まで蓮の車で来ていたこと高杉くんは知っていたのかな。 「今日は……実家から来たの」 「おい、なんかあったのか?」 急に歩いている私の手首を掴んだから私は急停止してしまい、体がよろけてしまう。 「急に引っ張ったら危な」 「神堂部長と何かあったんだろう?」 「ちょっと高杉くん、みんな見てるよ」 「あ、ごめん……」 高杉くんはゆっくり手を離してくれたけど周りの視線が私達に突き刺さって、 「ほら高杉くん。会社行くよ」 そう言って私は歩くと、高杉くんもすぐ付いてきて、 「井上」 踵を鳴らしてスタスタ歩いている私は前を向いたまま返事をした。 「何?」 「お前幸せなんだよな?」 その言葉に今度は私が立ち止まってしまった。
/549ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23658人が本棚に入れています
本棚に追加