16章

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「私、幸せだもん」 蓮とのことは今は誰にも言いたくない。私は下唇を噛み締めた。 「井上、あのさ」 「私……急ぎの仕事あったんだ。先行くね」 「おい」 蓮のこと触れられたら私泣いちゃう。お願い、今は何も聞かないで。 地上へ上がる階段を走りずらいパンプスで一気に掛け上がり、高杉くんが追って来ないか後ろを確認すると高杉くんはいなくて、私は息を整えるため深呼吸をした。 「はあはあ」 今は誰にも言いたくないし聞きたくない。 私の気持ちが落ち着くまで誰も私に問い掛けないで。 「おはようございます」 すれ違う人達に挨拶しながら、蓮を意識しないように、目を合わせないように、私は自分のデスクに座った。 でも窓際の蓮の席はまだ空席だった。 先に来ていた梨花におはようって声を掛けたけど返事が返ってこない。 あれ?と思い梨花を見ると凄く怒っていて 「昨日どこにいたのよ」 と低い声で梨花は言った。 「昨日は……」 「後で聞くからね」 そう言ってパソコンを打ち始めてしまった。 その時は……梨花がどうして怒っているのかわからなかった。 食欲のない私はミルクティーだけ注文して梨花が来るのを待っていた。 「今日はクリスマスなんだ……」 あんなに楽しみにしていたクリスマスも今は邪魔と思ってしまう。 そういえば蓮が朝から来ていない。 外回り、となっていたけど…… カレーライスを持った梨花が私の向かいにドスンと座ると、じっと私を見つめた。 「あいつ美優を探してたよ」
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