16章

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『今日は帰らない』 そうメールを打ったけど…… やっぱり送信することができなくて消してしまった。 婚約者が私の所に来たこと蓮は知らないの? あの女の人言ってないの? クリスマスは一緒に過ごすんじゃないの? 疑問ばかり募って、自分から聞こうとしないで…… 意気地無しの自分がほんとに嫌になる。 結局メールをしないままお昼は終わってしまって、オフィスに戻って来た。 あ、蓮…… 外回りが終わったのかデスクに蓮が座っていて…… 真っ直ぐ私を見つめる視線とぶつかってしまって、私は慌てて目を逸らしてしまった。 何もなかったようにパソコンのキーボードに指を置き画面に集中しようとしたら、 「井上」 と、蓮に呼ばれてしまった。 鼓動が激しく動き出して掌に汗が滲む。 蓮の横まで行くと書類を差し出され、それを掴んだのに蓮は書類を離してくれなくて、 「えっ」 引っ張るにも引っ張れず蓮の方を見ると目が合ってしまい、戸惑って目を伏せれば 「資料探してきて」 と、いつもと変わらない口調で言った。 資料室に行けば絶対蓮が来る。 それはいつものこと。 梨花は忙しくて頼める状態じゃない。 行きたくないけど、誰かに頼むこともできなくて…… 私は諦めて資料室へ向かうしかなかった。 「寒い」 暖房が入らない資料室は夏とは違って冷え切っている。 肩を縮めて頼まれた資料を探し始めると ガチャ ドアが開く音が聞こえて、体がビクッとなって心拍が上がり出す。 だんだん近付く足音に私は後退りをしていた。
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