16章

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目をギュッと瞑っていると足音が止まり、ゆっくり顔を上げれば、目の前に蓮が立っていて…… 私はまた下に目線をずらし、自分の足元を見ていた。 「昨日どこにいたんだ?」 いつもより低い声でそれは怒っている声音で、私は顔を上げることができない。 両手で抱えていたファイルに力が入り、身を守るように体を小さくすると 蓮の足が一歩前に出て、私は蓮の腕の中に包まれていた。 でも私は蓮の胸を押し、 「離して」 蓮を睨み、そう言って蓮の腕が緩んだ隙に腕の中から逃げた。 蓮は一瞬 、眉を寄せ目を細め、また一歩私に近付く。 「近寄らないで」 背中に冷たい壁があって行き止まりまで追い詰められた。 「蓮、私に隠し事してる」 「隠し事?何それ」 「私知ってるんだから!」 私の口はもう止まることを知らなくて、泣きながら蓮に叫んでいた。 「この間……女の……人と……」 蓮は私の言っていることがわかったのか瞳を泳がせた。 「その人が……マンションに……」 「葵に会ったのか」 あの人……葵って言うんだ。 「あいつに何言われたんだ」 蓮の顔付きが豹変して、私の肩を掴んで揺さぶる。 「何に言われたんだよ」 「……痛っ」 強く掴まれた肩が痛くて声を上げてしまった。それでも蓮は離してくれなくて、 「蓮の……婚約者だっ……て……」 手が肩から離れていき、蓮は黙ってしまった。 蓮の顔が見たいのに…… どんな表情でいるのか怖くて私は見れなかった。
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