16章

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蓮に連れて来られマンションに来た。 私が出て行ったままのリビングには蓮へのクリスマスプレゼントがローテーブルの上に寂しく残されていた。 多分、蓮はマンションに戻っていないんだ。 蓮がリビングに入る前に寝室に行ったのでその隙に、私はプレゼントをバックに押し込んでいた。 あげてはいけないような気がしたから…… 「髪拭けよ」 「あ……うん」 寝室から戻った蓮からバスタオルを受け取り拭こうとすれば、蓮が私の前に来て髪の毛を拭いてくれる。 そんな蓮の優しさに付き合い初めた頃のように胸がキュンとしてしまう。 蓮の一つ一つの仕草や行動はずっと何も変わらなくて、いつも私の心臓を高鳴らせた。 私がソファに座ると蓮も横に座って…… そして蓮は話し出した。 「前に自殺未遂した女のこと話したよな……あれが葵なんだ」 私は驚いてしまって思わず蓮を見た。 でも蓮は前を向いたままで一点を見つめていた。 「美優が一人でいた時、ここに来たのもあいつ」 やっぱり…… 「クリスマスが近くなると連絡してきて、言い寄ってくる」 「どうして……クリスマスなの?」 蓮は少し間を置いてから 「……自殺しようとしたのがクリスマスイブだったから……」 え?そんなだからって…… 「クリスマスになったら連絡してくるのは……あの時の苦しみを思い出せってことだろ」 「……」 もう何年も前のことなのに…… じゃあ、毎年あの人はクリスマスになると連絡してきてたの? 「今まで連絡してきても相手にしてなかったけど……今年は美優の存在を知ったから……」 「私……?」 「自分だけ幸せになるのかって言いやがった」 「そんな……」 「だから直接会って美優に手を出すなってきつく言ってやった……でも会いに行ったんだな……」 すべてあの日のことの話だった。
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