16章

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無傷の私の前には蓮がいて、彼女の襟元を掴んでいた。 「美優に手を出すなって何度言わすんだ」 蓮に限界がきたのか、眉間にしわを寄せて本気で怒っている。 襟元を掴まれた彼女の顔が真っ青で身震いしていて今にも泣きそうで。 「お前の恨みは俺だろ。だったら俺にかかって来いよ」 「なんであんただけ幸せなのよ!あんたのせいで男が怖いのよ!また捨てられるって……怖くて……怖くて」 声がだんだん小さくなって最後は呟くように言った。 彼女の中で蓮だけじゃなく男の人がトラウマになってしまったんだ。 きっと蓮のことが凄く好きだったはず。でも蓮に気持ちがないことを知って死のうとして…… 人を好きになることが臆病になって、逆恨みで今でも蓮が幸せになることを妬んでいる。 どうしたら彼女に人を愛することができる心に戻してあげれるのだろうか。 「お前を苦しめたのは俺だ。それは本当に悪かったと思っている。でもすべての男が俺と同じとは限らない。だから……今度はお前が幸せになる番だ」 彼女の目から一粒の涙が溢れた。 そして、そのままフローリングに座り込み、顔を覆って泣き出した。 蓮は彼女の前にしゃがみ、 「葵のことがあったから、俺は美優を大切にしたいと思えるようになった」 涙をポロポロ流す彼女は来た時とは違う穏やかな顔で…… 何かに吹っ切れたかのように見えた。 「今まで……ごめん……なさい」 泣いていたけどはっきり聞こえた。ごめんなさいって言う彼女の言葉を…… 「蓮くんだけが……悪いんじゃないのに……全部蓮くんのせいにして……本当に……ごめんなさい」 彼女は私に深々と頭を下げた。 人を好きになる気持ちは私にもわかるから…… 好きになったら止まらないことを知ったから…… 「幸せになって下さい」 と、心からそう思ったから彼女に言っていた。 誰かを守りたい、この気持ちを大切にしてほしい。
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