16章

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嵐が去ったかのように静寂なリビングは時計の秒針の音だけが聞こえていた。 彼女は何度も涙を流し、何度も頭を下げた。 そして、二度と私達の前に現れない、彼女はそう言って帰って行った…… 静かな空気の中、先に沈黙を破ったのは蓮だった。 「美優」 私は蓮の方へ顔を向けると、 「辛い思いをさせて……ごめん」 「ううん」 首を横に振って蓮を見つめれば申し訳なさそうに眉を寄せている。 「せっかくのクリスマスを……」 「もういいの。こうやって蓮がいてくれるだけで私は嬉しい」 「クリスマス……楽しみにしてただろ?」 楽しみにしてたけど、ほんとに今は蓮がいてくれるだけで嬉しいの。 「来年は……ちゃんとできるよね?」 私がそう言うと蓮は口角だけを上げて優しく笑った。 「来年だけじゃなくてずっとだろ?」 「うん!」 ずっとって言ってくれたってことはこの先の未来に繋がっていること。 それだけで私は頬を緩めた。 「今からちょっと出掛けない?」 「今から?どこに?」 「それは行ってからのお楽しみ」 蓮はニヤッと笑って車のキーを持った。 私は急いでコートを着て落ちていたマフラーを拾おうとしたら、先に蓮が拾ってくれて、 「寒いから暖かくして」 私の首にマフラーを巻いてくれた。 バックと携帯を持って玄関に行けば、ドアを開けたまま蓮が待っててくれて…… 私はブーツを履いて廊下に出た。 「ねぇ、どこ行くの?」 「秘密」 「教えてよ」 ククッと笑って手を繋いできた蓮はスタスタと歩き私は着いて行く。 駐車場に行き、車に乗せられてからも教えてくれないから私は頬を膨らませていた。
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