18章

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甘いキスの時間が終わった私達はおせちを作るため買い物に来ていた。 カート押す蓮の横に並んで賑わう人混みの中、食材を探している。 「奥さん、これ安いよ」 店のおじさんに奥さんと言われてなんだかくすぐったい響きに蓮の顔を見ると 「奥さんだって」 「なんだか照れちゃう」 「子供に見られなくてよかった」 もお、またすぐバカにする。 「子供じゃないもん」 「ベッドの上の美優は大人だけどね」 蓮はコソコソと耳元で呟いてクスッと笑う。 こんな所でそんなこと言わないで。 私はみるみるうちに顔を赤くして、クリスマスのことを思い出してまた頬を赤く染めていた。 「俺も手伝うよ」 と、言ってくれた蓮とキッチンに立っている。 包丁裁きは私より遥か上で悔しいけど蓮の方が上手だ。 きれいな指先で包丁を握っていて、この指先がいつも私の頬に触れてくれて……そして…… 「また一人で妄想?」 「あ、ちょっと……いろいろと……」 「妄想する暇あるならそれ洗って」 「う、うん」 だってね。やっぱりこんな私と並んでいることが何ヶ月経っても夢みたいでね。 しかもずっと好きだったなんて、どうしてもまだ信じられないんだ。 私なんかよりもっともっと美人でかわいくて、そんな人たくさんいるのに…… なんで私なんだろうって思っちゃう。 使い終わったまな板を洗いながらちらっと見れば、長い睫毛に整った鼻筋、そしていつも意地悪なことを言う薄い唇。 ほんとに私にはもったいないぐらい格好良くて。 「美優」 「うん?」 「やる気ある?」 「あるよ。すごくある」 「はあ」 深い溜め息を吐いた蓮は 「そんなに見られるとやりづらい」 と、苦笑いをしている。 「だって……なんか見惚れちゃって」 「だから、それがだめなんだって。美優一人で作れないよね?」 私は蓮がいないと、ほんとに何もできない。 「私ちゃんとやる」 「プッ、いつも意気込みだけはあるよね。それだけはえらいって認めてやる」 ほんわりした穏やかな時間が幸せなことなんだなって、私は実感していた。
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