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「なんかだるいな」
帰る前に蓮から、
『今日は残業するからご飯はいらない』
とメールが入っていた。
だるい体で駅まで歩いていたら、なぜか額に汗が滲んで……それをハンカチで拭いながら、もう少しで着く駅を目指していた。
駅の階段を降りている途中だった。
立ち眩みがして私は横にあった手摺に慌てて掴み、その場にしゃがみこんでいた。
なんとなく寒いし……熱出てきちゃったのかな……
「大丈夫ですか?」
男の人が屈んで声を掛けてくれて、足元の靴が目に入った。
「大丈夫です」
と、答えて顔を上げた先には……
「凌太?」
「み、美優?美優だったのかよ。お前具合悪いのか?」
「ちょっと目眩がして……」
びっくりした。まさか元彼の凌太にこんな所で会うなんて……しかも具合悪くてしゃがんでいる姿を見られてしまって。
「顔色悪いぞ」
「ちょっと風邪引いたみたいで。でももう大丈夫」
私は手摺に掴まりながら立ち上がった。
目眩も治まりなんとか大丈夫そうだ。
「送って行こうか?」
「ううん。大丈夫。もう良くなったから」
「でも途中でまた具合悪くなったらどうするんだよ」
「ほんとに大丈夫」
「マンション変わってないんだろ?駅降りてからも結構距離あるだろ?」
凌太はまだあそこに住んでいると思ってるんだ……
「私、引っ越したんだ」
「引越したの?」
「うん……」
凌太はそっかと言って視線を遠くへ逸らした。
「ほんとに大丈夫だから、心配してくれてありがとう。電車来ちゃうから行くね」
鞄を肩に掛けて階段を降りようとしたら、
「ちょっと待って」
と、言って凌太は私の腕を掴んだ。
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