19章

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「俺もついて行く」 蓮は落ち着かない私を心配して診察室まで一緒に来てくれようとしている。 「一人で大丈夫だよ。診察が終わったらまた戻って来るから、蓮はここで待ってて」 ちょっと寂しそうにうんって頷いたけど…… 「やっぱり一緒に行こうか?」 「診察室までは入れないから先生に呼ばれた時は一緒に行こう」 診察室って聞いて、あっ、という顔をして蓮は入れないってことがわかったみたい。 「じゃ、行って来るね」 そう告げて私は一人で診察室に入って行った。 初めての産婦人科は何をされるかわからなくて、診察台の上でキョロキョロ周りを探っていた。 見たことのない機械にちょっと不安になり手に汗が滲む。 「おはようございます」 と女の先生が入ってきて、 「あ、おはようございます」 女の先生の顔は見えないけど、優しそうな声に聞こえた。 訳がわからないまま、あっという間に診察が終わって…… 前が見えない診察はとてつもなく不安で、なんとも言えない感触だけが残っていた。 診察を終えた私は廊下で待つように言われ、蓮の所に戻ると、私が出てきたのに気付いた蓮は長椅子から立ち上がり、私に近寄った。 「どうだった?」 「うん……あっという間に終わったかな」 「そっか」 「うん……」 それ以上蓮は何も聞かず、黙ったままどこか遠くを見つめていた。 ちょうど私の目の前に大きなお腹の妊婦さんが座っていて、大きなお腹で辛そうに座っている。 愛しそうにお腹を擦る姿にあんな風になるのかと自分と重ねながら 「もうすぐ産まれるのかな」 蓮も見ていたのか、 「かなり大きいからそろそろなんじゃない?」 「早く赤ちゃんに会いたいだろうな」 私は目を細め、黙って妊婦さんを見ていた。
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