19章

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車の中は終始無言で…… だけどそれが嫌だとは思わなかった。 私も蓮も同じ気持ちだから。 慰め合えばいいのだけど、そんな簡単なものではなくて、今、現実を理解しようとお互い必死で…… だから私も蓮も何も言わなくても通じ合ってる。 私はそう思っているよ。 マンションのエントランスに車が止まると、 「二人一緒は休めないから……俺は仕事行く。美優は今日ゆっくり休んで」 「え、でも……」 「疲れただろ?早めに帰って来るから待ってて」 「うん……」 「俺ハンバーグ食べたい」 「ハンバーグ?うん、わかった。作って待ってるね」 よしよしと頭を撫でてくれた蓮は口角を上げて笑っていて…… 「ちゃんと薬飲むんだよ」 「うん」 車から降りようとしたら急に腕を引っ張られて、私は引っ張られた反動で蓮の方へよろめいた。 チュッ と、リップ音を鳴らしてキスをくれて…… そして頭をポンポンと軽く叩くと、 「いってきます」 と微笑んで、いつもと変わらない優しさが嬉しくて私も自然に笑顔になれる。 車から降りて、私が手を振れば、照れ臭そうに蓮も手を振り返してくれて…… 車のウインカーが出て、曲がって行くのを確認して私は踵を返しマンションに入った。 一人寂しくリビングに入る。 ソファに腰を降ろして、深呼吸をすれば、やっぱり悲しくて鼻の奥がツーンと痛くなる。 これでよかったのかよくなかったのかわからないけど、やっぱり残念だったのは確かで。 自分のお腹に触れてみれば、蓮の前で泣いていられないと我慢していた気持ちが溢れ出してポタポタと太股の上に涙を落とした。
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