19章

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「いただきます」 二人で声を揃えて言うとお腹が空いていたのか、蓮はすぐに箸を持って食べ出した。 「うまい。このハンバーグソース、美優作ったの?」 「うん。デミグラスソースに赤ワイン入れて、ちょっと工夫してみた」 「ほんとうまい」 「フフッ、蓮よく噛んで食べなきゃだめだよ」 人の話なんて聞かず美味しそうに食べてくれて、見ているこっちも嬉しくなる。 「今までで一番おいしい」 「えー、じゃあ今までのはまずかったの?」 「いや、そうじゃなくて。あ、そうだ、今日会社でね」 「あ!話ずらした!」 蓮はギクッとして、笑って誤魔化しながらコップの水を飲み干した。 それからお腹がいっぱいになって残したハンバーグを蓮がちょうだいと言って食べてくれて。 なんだかポカポカする団らんで、私も蓮もさっきから笑ってばかり。 今朝の出来事が嘘のよう。 きっと、蓮もその話には触れないようにしているのかもしれない。 「ごちそうさまでした」 そう言って蓮は見事に完食して空っぽになった食器をキッチンへ持っていく。 私はそんな蓮を目を細めて、愛しい眼差しで見ていた。 お風呂にも入り、二人でベットに寝そべりながら蓮と話をしていた。 「赤ちゃん……残念だったな」 「……うん」 頭に腕を組んで天井に視線を向けたまま蓮はどこか切なそうに言った。 「ほんとはもう話すつもりはなかったけど、きちんと話さないといけないと思って」 「うん……」 「美優はまず薬を飲んでちゃんと治すこと」 「うん」 「赤ちゃんはそれからでも遅くないよな?」 私の方へ顔を向けた蓮の茶色瞳がライトに反射されて、潤んでいるように見えて…… その瞳に吸い込まれそう…… 蓮は体を私に向けて、そっと頬に触れた。 「まだ先になるかもしれないけど……結婚したら俺達の赤ちゃんを産んでほしい。それまで喜びはとっておこう」 蓮の言葉に胸が熱くなって目尻からは涙が溢れていた。
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