20章

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金曜日の夜。 お風呂上がり、蓮とまったりテレビを見ていたら、 「明日どっか行こうか?」 と、何を思ってかポツリと呟いて。 「美優どっか行きたいとこある?」 蓮はビールを片手に視線はテレビを見たままで…… ちょうどテレビで水族館の特集をやっていて、レポーターの人がイルカのショーを見て興奮しているのが映っていた。 「水族館に行きたい」 と、私はテレビに向かって指を差すと、 「俺は動物園に行きたい」 少し耳を赤くしながらボソボソと恥ずかしそうに蓮が言った。 「え?動物園?」 「動物園」 蓮の口から動物園って、ちょっと意外な発言でプッと吹き出してしまった。 「俺が動物園って言ったらおかしい?」 「そうじゃなくて、蓮が動物園なんて意外で」 「美優が水族館行きたいなら水族館でいいけど」 そう言いながらもいじけモードに入った蓮がかわいくって。 でもなんで動物園なんだろう。 「どうして動物園なの?」 と私が聞くとフッと笑ってビールを一口飲むと、それをテーブルに置いた蓮はテレビを見てて、でもどこかぼんやりしていて。 「小さい頃……仕事が忙しい母さんに動物園に行きたいって言えなくて……父親もいないし、家族の思い出ってないんだよね。学校の行事で行ったことはあるけど、誰かと一緒にっていうのがなくって……だから美優と……って思ったんだけど」 蓮は昔を思い出したのか寂しげな顔で眉を下げた。 前に忙しいお母さんにわがままを言わないでいた蓮の話を思い出した。 私と一緒にって思ってくれるなら……それは嬉しいこと。 「蓮、動物園行こう」 「美優が水族館に」 「いいの明日は動物園に行くの」 いつも私に合わせて、私のわがままを聞いてくれる。そんな蓮が行きたいと思った動物園。私も一緒に行きたいって思ったから…… 「水族館は違う日でいいの。明日は絶対動物園行くからね。何着ていこうかな、楽しみだね、蓮」 髪を掻き上げてそっぽを向いた蓮は嬉しいのに素直じゃなくて、でもそこが蓮らしくって。 あまりジロジロ見ると、何?って突っ込まれそうだから、私は見ぬ振りをして明日のことを考えていた。
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