20章

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やっぱり土曜日の動物園は混んでいて、ちょっと目を離せば蓮を見失ってしまうほど人だかりだった。 「ほら」 と差し出された蓮の手を、いつものように掴むと手を組み直して繋いでくれる。 「子供だからすぐ迷子になるからね」 ってまた子供扱い。さっき入場券を買う時、 「美優は中学生でもバレないよな」 なんてククッて笑うし。 その笑顔に入場券売り場のお姉さんが頬を赤くしていたのも知らないで。 その妖艶な微笑みに誰もがドキッとするんだから。 だからほんとはあまり笑ってほしくないって思ってしまう。 案内のパンフレットを開いてどこから行くか見ていると、蓮は私の手を引いて歩いてしまう。 「蓮どこ行くの?」 「こっちから行こう」 蓮と歩く小幅が違う私は少し小走りになって…… 「おっ、いた」 急に止まるから蓮の背中に衝突して鼻をぶつけてしまい、痛い鼻を押さえながら横からひょっこり顔を出すと、 「あっ、象だ!」 アフリカゾウと書かれた説明と象を交互に見ながら、目の前にいる大きな象に私は口を開けまま。 「次パンダ」 「待ってよ、蓮」 軽い足取りで前へ前へと進んで行くのを人の波を掻き分けて、繋いだ手が離れないように着いて行った。 「あ、すみません」 カップルにぶつかってしまい、すぐに謝って頭を下げて、頭を上げればまた違う人にぶつかってしまい、ほんとに人が多過ぎて…… 「あ……蓮」 一瞬のうちに蓮と手が離れてしまい私の手は寂しくぶらりと垂れ下がる。 前からも後ろからも人に押されて、背の小さい私はどんどん人混みに飲まれていく。 周りを見ても蓮らしき人が見つからない。 「蓮……蓮どこ?」 背が高いから見つけられそうなのに…… それでも蓮を見つけられない。 少しだけ人が少なくなったけど…… え……ここどこ?
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