21章

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桐谷課長の話を聞いてから数日後、噂のその人はやってきた。 影でおじさんとみんなに言われている白髪混じりで太めの常務がみんなを集めた。 オフィスの中央に集まった社員達。 常務の隣には背が高くて髪をサイドに流し、きっと脱いだら筋肉質だろうと思われる広い肩幅できりっとした目の男性が立っていた。 隣にいた梨花が私の耳元で、 「ちょっとかなりのイケメンじゃなくて極上だよ」 ミーハー丸出しの梨花は胸の前で指を絡めてうっとり見惚れている。 私は桐谷課長より、絶対蓮の方が格好良いと思うけど。 「海外任務を得て帰国した桐谷海人くんだ」 そう常務が説明すると周りの女子達がコソコソと話し出す。 私は他人事のように冷めた目で見ていて、桐谷課長より私の斜め前に立っている蓮の方が気になる。 「3年ぶりに帰って来ました、桐谷です。今日からまたここでみなさんと仕事をしていくことになりました」 私は桐谷課長の話なんてそっちのけで、昨日磨いた蓮のローファーを見ていた。 よしピカピカだ。昨日、もういいよって言う蓮を無視して必死になって磨いてたんだ。 「ちょっと」 梨花が肘で私をツンツンとしてきた。 私は蓮の後ろ姿を見ながら、今日の晩ごはん何食べようかなって考えてて…… 適当に返事をした。 「うん?」 「見てる」 「うん?誰が?」 「美優を見てるって」 もお、誰なのか言って……よ。 蓮から視線をずらして正面を向くと桐谷課長が私を見ていて…… 左右をキョロキョロと見てもやっぱり桐谷課長の視線は私に向けられていて…… なんで私を見てるの? 私…… 何かした?
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