21章

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とりあえずデスクに戻って、窓際に座る蓮をちらっと見てみれば険しい顔で書類を見ている。 私が桐谷課長と仕事をすること、蓮は知らなかったみたいだけど…… 上の人達だけで決めたのかな……でもそれをどうして蓮に伝えなかったのか…… それにしても女子にまだ囲まれている桐谷課長は笑顔を絶やさず楽しそうに会話をしていて。 「ねぇ、梨花……あ……いない……」 まさかと思い桐谷課長を見れば、梨花は一番前のポジションを取って女子達に紛れている。 「はあ……」 今日、ニ度目のため息。 「井上」 蓮からの呼び出しで私は素早く立ち上がる。 「はい」 そして自分のデスクの横を通って蓮のデスクに向かうと、 「井上さんちょっといい?」 桐谷課長に呼び止められて私は立ち止まりそちらを見た。 蓮のデスクの前で呼び止められたからそれを蓮は見ていて…… 「ここなんだけど」 と桐谷課長は私に近寄ってきて書類の数字に指を指した。 「桐谷。先に俺が呼んだんだ。後にしてくれ」 蓮の目の前で止まっていた桐谷課長に冷たく蓮は言った。 桐谷課長は唇を噛み締めて一瞬、蓮を睨んだように見えたけど…… 「すいません、神堂部長。僕の部下になったんでつい声を掛けてしまいました」 蓮の眉がピクッと動いたけど、すぐ私に視線を移して、 「これコピーしてきて」 「はい」 原稿を渡されて私は蓮から受け取る。 それをずっと桐谷課長が見ていて蓮とのやり取りが終わったのを見届けて、 「コピー終わったら教えてほしいことあるから俺の所に来てくれる?」 と、にこやかに微笑んで桐谷課長は踵を返し自分のデスクに戻っていった。 あの笑顔が苦手だと思うのは私だけなんだろうか……
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