22章

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仕事が残ってしまい定時に上がることができず、やっと片付けて私はいつもの居酒屋の前まで来ていた。 蓮も多分こっちへ向かってるはず。 暖簾を潜り店員に案内されて一番奥の広い座敷の部屋へ案内される。 店内は金曜日だからなのか会社帰りのサラリーマンが顔を赤くして盛り上がっていた。 「こちらです」 と、店員さんに言われて 「ありがとうございます」 ペコッと頭を軽く下げブーツを脱いでいると、 「お疲れ」 と頭の上から声がして片方のブーツを残したまま顔を上げれば桐谷課長が立っていて、 「桐谷課長、お疲れさまです」 私が入り口でもたもたしているからか桐谷課長は中に入らなくて。 私がブーツを脱ぐのを待っている…… 「すぐ避けます」 「いいよ、ゆっくりで」 後ろへ片足を上げてブーツを脱ごうとしたら、 「キャッ」 片足だけで立っていたせいでバランスを崩してしまい、目の前の桐谷課長に向かって倒れていった。 「危ない」 そう言った桐谷課長が倒れそうになった私の肩を掴んでくれて…… 私は転ばずに済んでいた。 「す、すいません」 私は急いで離れようとしたら……桐谷課長の後方に人影が見えて…… あっ…… 桐谷課長の後ろにいたのは無表情の蓮が立っていた。 「転ばずに済みました。ありがとうございます」 自ら桐谷課長から離れると、私の横を何も言わず蓮が通り過ぎていく。 目さえも合わせてくれなくて…… 声を掛けようにもこの状況で話し掛けられず、しかも桐谷課長も横にいる。 「意外に井上さんっておっちょこちょいなんだな」 「……はい」 今は桐谷課長の言葉より、蓮の冷たい態度が気になって…… 蓮のことをずっと目で追っていたけど……蓮は一度も振り向いてくれなかった。
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