22章

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蓮に呼ばれた桐谷課長は、 「なんですか、神堂部長」 と、面倒臭そうに声を出した。 そんな桐谷課長に蓮の眉が一瞬だけピクッと動き、 「無理に飲ますのもどうかと思うけど」 たばこの煙が充満しているせいか蓮の声は微かに掠れていた。 「無理やりじゃないですよ。ね、井上さん」 「あ……えっと……」 無理矢理に近いような気もするけど……それを飲んだのは自分自身で。 「井上も飲みたくないならきちんと断れ」 怒った口調で蓮は私に言ってきて、それはまったく優しくなくて込み上げてくる涙をぐっと押さえる。 「……はい」 ただそう答えるしかできない。 「女の子には優しくしてあげて下さいよ」 桐谷課長も負けずときつく蓮に向かって言い退ける。 周りは賑やかなのにここだけ険悪な空気に居たたまれなくて私は、 「あの……」 と勇気を振り絞って声を掛ければ、蓮は私から目を逸らし立ち上がって歩いて行く。 「っ……」 思わず蓮!と叫んでしまいそうになって唇を噛み締め、今まで蓮が座っていた席を見る。 横に座る桐谷課長は蓮を気にしていないのかビールを飲んでいた。 「わ、私……神堂部長見てきます」 テーブルに手を付いて立ち上がろうとしたら桐谷課長に手首を掴まれて、 「放っておけば」 桐谷課長は冷めた目で私を見て、私はその目がとても怖くて視線を逸らした。 「でも……」 「行ってどうするつもり?」 「……」 蓮の所に行って……そして私は…… 「行く意味がないだろう?」 「え……でもやっぱり」 「井上さんと神堂ってなんかあるの?」 「あ、ある訳ないじゃないですか」 二人のことを疑われて焦った私はすぐに否定した。
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