22章

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「私……やっぱり神堂部長の所に行って来ます」 「井上さん!」 やっぱり蓮のことが気になって私は桐谷課長の声を振り切り、すいません、と座っている人の後ろを通ってやっと廊下へ出た。 「トイレかな……」 ここから少し離れた場所にトイレがあって、私は急いで行く。 「神堂部長……神堂部長」 トイレの前で呼んでも返事がない。 「蓮……どこ……?」 顔馴染みの女性の店員さんが前にいて、 「あの、すいません。うちの会社の」 そこまで言うとピンときたのか、 「神堂さん?ですよね?」 「あ、はい。そうです」 「さっき出て行きましたよ」 「外に……ですか?」 いつもニコニコしている店員さんは今日も素敵な笑顔で。 「はい、そうです」 「ありがとうございます」 私は軽くお辞儀をして賑わうサラリーマン達の横を駆け出した。 木のスライドドアをガラガラと開けて外へ飛び出せば、店からちょっと離れた場所に私が初めて見る光景が目に入った。 「蓮……」 蓮が…… 煙草を吸っていた。 ガードレールに寄り掛かって白い煙を吐き出す容姿に胸が高鳴る。 どんな蓮でもやっぱり素敵で…… でも私の前では一度も煙草を吸ったことがなくて、もしかしたらずっと我慢してたのかな…… 「蓮!」 と呼べばすぐ私に気が付いて置いてある灰皿に吸っていた煙草を押し付けて消すと私に視線を向けた。
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