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「なんで来たの?怪しまれるって思わなかった?」
「だって……蓮のことが気になって……」
蓮の言葉には温かみがなくて冷めた口調で……
そして私からまた目を逸らして遠くのビルを見ている。
静寂な夜に沈黙が続く……
それを消し去るように蓮はポケットに手を入れ煙草とライターを取り出すと、長い指で煙草を一本抜くと目を細めて火を着けた。
白い煙が風と共に流れてやがてそれは消えていく。
「蓮……煙草……」
「イライラする時たまに吸ってる」
やっぱり……今はそういう状況なんだ。
私が原因でイライラしてるんだ。
そう思うと胸の奥が痛くなって泣きそうになるのを堪えると……
「桐谷には気をつけるようにって言ったよね」
あの日、桐谷課長が初めて出社した日の夜、蓮は私にそう言って頭を撫でてくれた。
「肩掴まれたり……口拭かれたり……何やってんだよ」
じわじわと涙腺から涙が出てくるから下唇を噛み締めて、泣いているのがばれないように顔を背けて鼻を啜った。
「ごめん……なさい」
「だから……」
「キャッ」
蓮がいきなら手を引っ張って走り出す。
一瞬の出来事で私は引っ張られながら蓮が走る方へついて行く。すると、ビルの横にある細い路地に入ると伸びてきた腕に体は引き寄せられて……
蓮の逞しい腕の中にすっぽり収められていた。
そして瞬きする間もなく唇を奪われて……
いつもの蓮の匂いと違うタバコの香りが鼻孔を擽った。
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