22章

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「ンッ」 強引なキスを落とし、ゆっくり唇が離れると、蓮は顔を伏せた。 そして私の肩に頭を乗せた蓮が呆れたように深いため息を付いて、 「俺……美優のことになると前が見えなくなる」 と掠れた声音が耳元から聞こえた。 蓮が言った言葉で私は複雑な心地になって、思わず胸を押さえる。 「こんなことぐらいで嫉妬して俺……格好悪い」 情けない声を出した蓮に胸がキュッと締め付けられた。 私はううんと何度も首を振って蓮の背中にそっと手を伸ばし優しく抱き締め、 「蓮は格好悪くなんかないよ」 だって私にだって嫉妬心はあるから…… 「蓮……」 と、名前を呼ぶと切なげな顔の蓮と目が合って…… そんな蓮でも愛しく想ってしまって。 「桐谷課長には気をつけるから。だから……そんなこと言わないで」 精一杯の言葉を掛けると、 「美優にこんなこと言わせて……ごめん」 顔を上げて真っ直ぐ私を見る瞳に吸い込まれそう。 「もう謝らないで」 そう言って私が微笑むと蓮が口元上げて笑っていて。 そしてさっき桐谷課長が触った場所に蓮の指が触れて…… それを嫌だと思わないのは桐谷課長じゃなく蓮だからで。 「誰にも触らせるな」 命令口調で言いながらも照れ臭そうに横を向いて顔を隠そうとする。 「蓮こっち向いてよ」 「いやだ」 楽しそうにじゃれ合う私達。 そんな様子を…… 拳を強く握り締めながら、ビルの壁に隠れてずっと見ていたのは桐谷課長だった。
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