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「神堂部長、今日直帰だって」
「えっ……」
私は梨花の一言で呆然と立ち尽くす。
直帰って……会社に戻って来るんじゃないの?
壁に掛かった大きなホワイトボードを見れば蓮の名前の横に直帰と書かれていて。
蓮がいてくれればなんとかなるかもって思っていたのに……
どうしよう……この言葉ばかり頭の中で行き来してて……
寄りによって昼から桐谷課長は営業課に行ってオフィスに戻って来ない。
断るにも断れなくて、時計を見ればもう5時。
忘れていました、とこのまま帰ってしまえばいいのかもしれない。
そんな邪心な気持ちが芽生えてしまって顔をブンブンと振って消し去っていると、
「井上帰っていいぞ。俺も帰るから」
と、桐谷課長がオフィスに入って来てすぐ私に声を掛けてきた。
「あっ……はい」
急ぐようにデスクの上を片付けて書類を鞄に入れている桐谷課長に私は寄って行き……
「……桐谷課長」
「ごめん、俺急いでるから。」
桐谷課長は向きを変えて歩き出そうとした。
「待って下さい」
と、呼び止めると私の方へ体を向けて、
「玄関で待ってないと逃げちゃう人いるからね」
ニヤッと意地悪っぽく笑った桐谷課長に私は何も言えなくなって……
帰って行く桐谷課長の背中を見ているしかなかった。
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