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蓮からの連絡は結局来なくて……
更衣室で着替えた後、電話を掛けたけど蓮の携帯は繋がらなくて電源が切れていた。
多分……充電が切れたんだと思う。
もし蓮がマンションに帰って携帯の電源を入れても桐谷課長が隣にいる間は電話もできないし、メールもできない。
蓮に連絡を取る手段がもう見当たらない。
狭いタクシーの中ではラジオから懐かしい曲が流れていて……
少し離れて座っている桐谷課長は無言で窓の外を見ていた。
今になって乗ってしまった後悔が押し寄せて、ただ膝の上で握った手を見ているしかなくて。
もっと違う断り方がなかったのかとまた考えるけど、もう私は桐谷課長とタクシーに乗っていて、今更逃げることもできない。
「降りるよ」
ずっと下を見ていてどこまで来たのかさえわからなくて……
桐谷課長の後にタクシーから降りると……
「ここは……」
芸能人がよく結婚式を挙げる有名な高級ホテルだった。
「ここのレストランに予約してあるんだ」
そう言って桐谷課長は先を歩く。
私はなかなか一歩が出なくてその場に立ち尽くしていると、
「どうした?」
と、首を傾けて私を迎えにこっちに戻ってくる。
「腹減ったから早く行こうぜ」
至って普通に笑う桐谷課長は、ほらほらと私の背中を押して前へ進ませる。
レストランに着くまで桐谷課長がここのレストランのケーキがおいしいとか話してくれたけど……
そんな話は耳に入らず、私の体は緊張が走り硬直状態だった。
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