23章

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「用がないなら帰ります」 勢いよく立ち上がり席を離れようとしても何故か桐谷課長は冷静で…… でもそんなこと気にしていられない。 早くこの場から逃げ出したくて桐谷課長に背を向けた。 「帰ったら後悔するぜ」 え…… 私は足を止め、手に持っていたバックを強く握り締めた。 「井上さんって……神堂と付き合ってるんだよな?」 顔が蒼白くなっていくのが自分でもわかった。 背筋がぞっとして冷や汗が出てきて…… 激しくなっていく鼓動を悟れないように冷静でいようと思っても、急加速で心臓が動き出す。 桐谷課長は私達のことを知っていたんだ。 やっぱり蓮の言う通りだった。 「二人で資料室行って何やってんの?」 桐谷課長が何を言いたいのかすぐわかった。 資料室での私と蓮の密会を桐谷課長は知っている。 「桐谷課長、何が目的ですか」 私は振り返って桐谷課長に向き合った。 「目的なんてないよ。ただ井上さんが好きなだけ」 「からかわないで下さい」 「あのさ、さっきから井上さん目立ってるよ」 「えっ」 周りを見渡せばみんな静かに食事をしていて、大声を出しているのは私だけ。 しかも私ったら立ったままで。 「まず座りな」 桐谷課長にそう言われた私は真っ赤な顔でまた席に戻って座った。 「桐谷課長、うちの会社は社内恋愛禁止じゃありませんよね」 「そうだな、禁止ではないよな」 桐谷課長は私の話を本当に聞いているのかステーキを切ってそれを食べ始めた。 「私の話聞いてますか!」 あまりにも桐谷課長が真剣に聞いてくれなくて、私はまた大きな声を張り上げていた。
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