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「井上さんは聞き分けのいい子だな」
みんなが見たら喜びそうな笑顔で桐谷課長は微笑む。
それを憎いと思うのは多分……この状況に措かれた私だけだと思う。
「部屋行こうぜ」
キーを握って立ち上がった桐谷課長に胸がズキッと痛み体が硬直する。
私の体が行きたくないと悲鳴を上げて動けない。
そんな私を見て桐谷課長はじれったいと思ったのか腕を掴んで立たせようとして、
「自分で立てます」
と言い張れば、
「そんなに緊張しなくていんだよ」
と、私の耳元で甘く囁く。
私は罵りたい気持ちを堪えながら、少しでも時間を稼ごうとゆっくり立ち椅子の横に立った。
でもすぐにスルッと腰に手を回され……
それは逃げられないように手に力が入っていて……
桐谷課長に誘導されながらレストランを出てエレベーターが降りて来るのを待っていた。
「あの……お手洗い行っていいですか?」
「ああ、いいよ」
「すみません。すぐ戻ります」
エレベーターのすぐ近くにトイレを見つけ、私は焦せる気持ちを隠しながら入った瞬間バックから携帯を探した。
一番奥の個室に入り急いで携帯を取り出す。
見つけた携帯を握れば小刻みに震えて上手くボタンが押せない。
焦りながらも両手で携帯をきつく握って梨花の名前を探して掛ける。
少しの間、コール音が続き
「梨花……お願い電話に出て」
本当は蓮に助けを求めたいのに蓮に電話を掛けれなかった。
だから私は梨花に掛けて……
「もしもし、もしもし、梨花!」
「どうしたのそんなに慌てて」
「助けて、お願い助けて」
私の声を聞いて異変を感じた梨花が
「美優落ち着きな。何があったかゆっくり言って」
「桐谷課長と……桐谷課長と都内の○○ホテルにいるの、私……私……」
話したいのに怖くなって声がうまく出てこない。
「わかったよ、美優。いい?少しでも長く時間稼いで。すぐそっちに向かうから、わかった?」
うんうんって何度も私は頷くと涙が流れてて……
「何号室かわかる?」
部屋番号……
さっきちらっと見えたのは……
「8000……」
それしか数字が見えなかった。
「8000しかわからない」
「8000ね、8階か……。美優すぐ行くからね」
そう言って電話は切れてしまった。
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