24章

4/11
前へ
/549ページ
次へ
「キャッ」 急に座っていた私の手首を掴み、その反動でベットに倒れ込むと、馬乗りになった桐谷課長と目が合う。 「き、桐谷課長、降りて下さい」 さっきまでの笑顔はもう一欠片もなくて、桐谷課長は本気なんだと思い知らされる。 どうしようもできない切なさと悲しさから涙が目尻を伝って流れていく。 梨花に連絡してからどのくらいの時間が経ったのかさえもわからない。 頭の横で押さえられた手は私の力では動かすこともできなくて。 もがいたって無駄なことが充分私はわかっていた。 「どうしてこんなことするんですか」 「……」 「桐谷課長は……好きでもない女の人を抱けるんですか」 私がそう言うと桐谷課長の眉がピクッと動いた。 「……抱けねぇよ」 そう言った桐谷課長の瞳はとても悲しそうで……でもそれがなぜなのかわからない。 「じゃあどうしてこんなことを……」 「最初は……利用してやろうと思ってた……」 耳を澄まさないと聞こえないほど桐谷課長の声は小さくて…… さっきまでの威圧的な態度の桐谷課長がなぜか今は弱々しく見えてしまう。 「俺は井上さんのことが……」 そこから先の言葉が桐谷課長から出てこなくて、私は話してくれるのを黙って待っていた。 「好き……なんだ……」 「ンッ」 瞬きする間もなく唇を奪われ、何が起こったのかわからなくて目を見開いたままだった。 でも私の唇を塞いでいるのは……蓮じゃない。 「い……やっ……やめ……ンッ」 嫌だと何度も何度も首を振って抵抗しても桐谷課長は私を追い掛けてきて…… やだ。 蓮以外の人とキスするのは嫌だ。 怖くて瞑る目からは幾つもの涙が零れ、蓮を想うともっと涙が溢れていく。 トントン ドアをノックする音が聞こえて耳を傾ける。 桐谷課長もドアのノックに気付き私から離れ、ドアを見た。 「誰だよ」 不機嫌に呟いて、面倒臭そうに体を上げてベットから降り、ドアに向かって歩いて行く。 トントン 二度目のノックに 「こんな時間に誰だよ」 ガチャ 鍵を開けた瞬間物凄い勢いでドアが開いた……
/549ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23659人が本棚に入れています
本棚に追加